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姫の言いたい放題・自画自賛日記です。


by rinasamori
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ブタがいた教室

【ブタがいた教室】を見てきました。
ブタを育てて食べるという本当にあった授業を映画化したものです。
私としては、馬や豚に接することのある人間なので、普段から命のことをとてもよく思いめぐらせているほうなので、ぜひ見たい映画でした。
人を誘っても「ちょっと……」という人ばかりでしたので、一人で行ってきました。
遅い時間だったにも関わらず、子供連れの人もいて、思ったよりも人が入っていて、驚きました。
見た感想は……。

期待以上! おすすめです!

原作も読んだし、ネットでですけれど、ドキュメンタリー映像も見ました。
それで映画化となれば、はたしてどのような表現を? 
おなみだちょうだい? 一方的? ドキュメンタリーを越えられる? テーマは?
ドキュメンタリー自体がインパクトのある内容なので、それをわざわざ映画化しても……という意見もネットであったようです。
でも、これは映画でしかできない。いわば、リアリティをいい意味で無視した、創作物として出来上がっていると。
そして、大事な問題提起も充分になされ、考えさせられる映画になっています。
手放しで、よかったよかった! という結末ではなく、私なら……と自分で置き換えて考える。エンタメを越えた映画だと思います。
私は、原作も読みましたが、この教育が正しかったのか? は、正直首をひねるところがありました。
でも、この映画は、疑似体験としても子供に見てほしい映画です。
血が出たり、などという残酷で悲惨な映像はありません。でも、辛辣な意見交換の中には、ドキッとさせられるものがあり、痛くもあります。
むしろ、子供よりも大人が傷つく映画かもしれません。
Pちゃんを通して、ヴェジタリアンの道を選ぶもよし、感謝して命をいただくのもよし、でも、何よりも自分自身でよく考えるという貴重な経験ができるはずです。
ぜひ、親と一緒に多くの小学生に見てほしい映画です。

以下は、長々ネタばれです。
映画を見た後に、私の意見として読んでいただければ……と思います。






映画を見る前に、ものすごく前情報が入っていたので、正直期待通りか心配でした。
私自身、お肉は美味しくありがたくいただくという考えなので、結末に関してはさほど嫌悪感は持ち得ないのです。
逆に「美味しくありがたくいただく」という意見を押し付けたり、美化したりしているのでは? という不安もありました。
というのも、ありがたくいただいていても、私自身は、自分で育てた生き物を食べるのには抵抗があるし、かわいそう……と思う心は優しくて正しいと思うからです。
「結論をまるなげではないか!」という批判もネットで見ましたが、むしろ、「答えなんかない」というのが、この映画のテーマだったのだと思います。

食の文化を理解するのは、とても難しい。
我が国は、海外から捕鯨をすることで「残酷」と批難されています。
牛を殺して食べる人々に、クジラを殺して食べることを「残酷」と言われる矛盾。
クジラを食べなくても、我々は確かに生きていけます。でも、問題は、長年我々を育んできた食文化を、単に残酷という言葉ひとつで否定されることにあります。
ここに、感情的な軋轢が生じます。文化的な差別です。
経済的・政治的問題も当然のようにありますが、なぜにこうも感情的な争いになるのか? 生き物の命を食するというのは、相互理解が難しい、いや、ありえないのかも知れません。
という日本人も、同じ日本人でありながら、長い間、アイヌ文化である【イオマンテ】の儀式を「残酷なもの」として否定してきました。
イオマンテは、小熊を家族のように大事に育て、最後に殺して食べ、神として天に返すという儀式です。
まさに、ペットのような存在を殺すのですから、元々が食肉文化が薄かった和人には、狩猟民族であるアイヌのこの儀式の意味を理解できず、野蛮と映ったのでしょう。
この【イオマンテ】が解禁されたのは、つい数年前のことです。
今更、小熊を家族のように育てて殺す……という儀式は、現実的に実行が難しいお祭りとなっています。でも、大事なのは、この儀式がなされるか否か? ということよりも、この儀式自体が「野蛮ではない、貴重な文化である」と認められたことだと思います。

話が脱線しましたが、脱線ついでに。
私は、この映画を見る前に「もしかしたら、子鹿物語のような感じかも?」と思っていました。
【子鹿物語】は、アニメにもなりましたが、農家の男の子が、親が死んだ子鹿を育てる話です。かわいがって育てるのですが、成長した鹿は、家族が大事に育てた農作物を食い荒らすようになり、高い柵も乗り越えてしまう。ついに男の子は、かわいい鹿を撃ち殺す……という悲しい結末になります。
見終わった後、この物語と映画を重ねることはありませんでしたが、しばらく自分の頭でぐちゃぐちゃ感想をくみ上げていくと、やはり重なる部分もあるなぁ……と思います。

見終わってからは、むしろ、一番似ているかも? と思ったのは、なんと、ペリカンのカッタ君のことでした。(笑)
いるはずもない動物が、学校を闊歩している不思議・違和感? それが、あのペリカンと幼児が一緒に遊んでいる姿に重なりました。
ドニュメンタリーではなく、映画だからこそできたのは、この違和感だったと思います。

撮影は天気にも恵まれたのでしょうね。
この映画は、実に青空が似合います。
そして、子供たちの描いた絵やカラフルな色合い・それでいて柔らかな色調・軽快な音楽が、重くなりがちなテーマを軽快にしてくれます。
見所の一つは、何かにつけ醜いものの代名詞的に言われるブタの愛くるしさでしょうか? 
臭い・汚い・危険……なども描かれていますけれど、それは軽く流しています。ここがドキュメンタリーとは違うところでしょう。
むしろ、いるはずもないところにブタがいる……というファンタジックでコミカルな雰囲気を重視しています。
子供たちは、自ら率先して小屋を建て、しかもカラフルで実用には不要な装飾をたくさんして、ブタを歓迎します。この時、ネットを使いますが、ネットは「ブタの足が絡まるから駄目」と言われます。これが、後の事件のときに生かされていますね。
ブタがピータイルの廊下をつるつる滑りながら歩いている様子は、この映画の印象的なシーンの一つです。
先生の家の浴室にブタがいる不思議。それだけで、くすり……と笑えます。
3年生が大切に育てて収穫しようと思ったトマトを、子豚のPちゃんが黙々と食べてしまっていた……それを見たときの子供と先生の表情。
音楽で一緒に合唱して大笑い。花火・サッカーなど、実際には一緒に楽しめる? って思えるようなことを、子供たちはPちゃんと過ごします。
ブタのPちゃんと子供たちが過ごしているシーンは、辛い大変なことよりも、まるでファンタジーの世界のように非現実的な夢のようなシーンなのです。
しかし「最後は食べる」という超現実的な問題が、どんどんと夢に影を落としていく。
最初に、不安に思ったのは、転校生のハナちゃん。彼女は、なかなか学校になじめず、お友達もできず、Pちゃんだけが心を開ける相手だった。
ハナちゃんは、Pちゃんが学校にいると、いつかは食べられると思って、近くの空き地で飼おうと連れ出してしまいます。
見つかったクラスメートに怒られますが、彼らは、先生には「散歩させていた」と、ハナちゃんをかばってくれます。

この映画の主役は、子供たち。
しかも、誰か一人にスポットが強くあたるわけではありません。
あえていえば、ハナちゃんかと思いますが、彼女がヒロインってほどでもなく、1生徒の枠を越えていません。みんなが主人公とも言える作りです。
先生は、明らかに目的を持ってブタを飼い始めたけれど、常に子供の意志を尊重してきた。しかも、子供たちは先生を越えて暴走し、自分たちでどんどん決めてしまい、先生は振り回されているような感さえあります。
先生もまた、新米教師であり、子供に学び、校長先生に暖かく見守られている存在であります。
ディベートのシーンでは、まだ意見を求めるの? と、痛さすら感じましたが。
校長先生に「最後は先生が決めなければ」と言われつつ、子供の意見を聞き続け、最後に「先生の票は?」と子供に言われ、戸惑う有様。
でも、この映画の子供たちにとって、この先生はいい先生だったのでは? と思います。突っ走る子供たちを見守り、フォローしつつ、最後に迷って決められない時に、助けを求められる。先生は、あくまでも脇役だったなぁと思うのです。
議論しつくして、子供たちはもう決められたことに従う覚悟ができている。泣きながらも、誰も文句を言わない。
答えは正しいとも正しくないとも言える。でも、みんなで決めたってことが大切。
議論のシーンで、男の子二人が喧嘩しそうになる場面がありましたが、子供なのに怖いほどの迫力がありました。
また、この議論を知ってか知らないのか、覗いているPちゃんの姿が印象的です。
トマトを食べられちゃった3年生。
最後に「どうして僕たちじゃ駄目なの?」って、聞くところ。
痛いですね。それに、応えられない6年生の切ない心が……うーん。
なんだかとても大人に思いました。

子供たちは、ブタが日常にいる……という非現実的で、ファンタジックな世界から卒業したのだと思います。
少しだけ大人になって、現実の日常の世界に戻ってくる。
それは、ブタが学校を歩かない、スーパーには豚肉が並ぶ、普通にブタを食べる生活なのです。
子供の夢の時代からの卒業・Pちゃんとの別れは、切ない。
Pちゃんの耳越しに追いかけてくる子供たち。まるで、捨てきれない夢を追いかけてくるようです。
ですが、卒業のシーンには、どこか晴れ晴れとした表情が子供たちに見えます。

全体的には、オブラートにかけたように、リアリティの点ではドキュメンタリーには叶わないでしょう。でも、映画としての表現は、すばらしかったと思います。
ありきたりのエピソードではあるのですが、さっぱりとしていて、大げさな演出がない。それでいて、考えさせられる映画。
こういった映画は、結末ありき・メッセージありきの映画になれていると物足りなく感じる人もいるかも知れません。でも、本当に大切なのは、答えではなく考えることではないでしょうか? 答えが、どちらでも正しくて間違っている場合は、特に。

ちなみに……。
映画を見るまでの私の答えは「食肉センターへ」だったのですが、見終わった後は……。
Pちゃんクラブを設立し、みんなでPちゃんの世話を続ける。そして、Pちゃん日記を付け続ける……でした。(^0^;
はい、私は、大人になりきれない夢見たがりな子供でして。
現実のPちゃんは、あんなにきれいな小屋にあり続けることもないだろうし、臭いもすごかっただろうし、餌も大変だったと思います。
それに、映画のPちゃんは、触れられていませんでしたが、メスです。現実のPちゃんは去勢されたオスでして、映画のPちゃんの倍は大きくなったはずです。性格もメスよりは荒いはず。
だから、現実のPちゃんの処分に関しては、先生の判断は正しかったと感じています。

****

乗馬をしていると……。
馬だってペットではない、家畜なのだけれど。ペット以上に、苦楽を共にしているかも知れない。
乗れなくなったら処分するしかない存在ではあるけれど、そうは簡単に割り切れないよ。
このPちゃんのようにトラックに乗せられる馬を何頭も見て来ては切なく見送ったけれど、納得はしている。
でも、どの馬でも納得できるか……と言えば、やはりえこひいきがあり、多分、納得できないで泣く時もあるかと思う。
私にとっては、常に現実の目の前の問題でもあるわけで……。
by rinasamori | 2008-11-15 13:48 | 映画感想